第9章 光と影、そして闇
「俺だ」
発信源を確認して応える。
画面から、目は離さずに。
『早いな』
電話の向こうから聞こえてきたのは、若い青年の声だった。
──そういやこいつは、彼女に固執していたっけな…
このタイミングということは、電話してきたこの青年も、この中継を見ているのだろうか。
「何か用か?」
『雄英の体育祭、見てるか』
「ああ、丁度見ているところだよ」
──やっぱりか。
『1年の、今戦ってる女────もしかしてと思うんだが。こいつのクラス、敵連合と戦ったところだろ?』
男は頷く。
「俺も彼女だと思うね。なぜ雄英にいるのかは知らんが…この歳であの動き、確実だろう」
『………斡旋はできるのか』
青年は、彼女に会いたいとずっと言っていた。
請け負えるかは判らないと言っているのだが、青年はどうしても諦めきれないようだ。
「彼女の方、というなら無理だな。
結託が強すぎるし、何より周りがな。
一応、試してはみるが」
言いながら、もう1つ端末を取り出し、とある掲示板に書き込む。
男が開設した特殊なもので、パスワードが判っていないと閲覧できないようになっている。
しかしながら閲覧者は多いようで、すぐに反応が来た。
それを無表情に男は眺める。
『敵連合と繋がりはあるのか?』
「いや、ないだろう。
一応、奴らとは顔見知りだが…彼女については、聞いたことがないな」
『…そうか。
彼女────"梟"ついて何か判ったら、連絡してくれ』
「調べておく」
こうして、緩やかに事態は進展していく。
少女の知らないところで。
熱狂とは程遠い場所、暗く冷房の効いた地下室で────液晶画面だけが明るく光り、男の座る椅子がキィキィと音を鳴らせていた。