第9章 光と影、そして闇
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本当に偶然だった。
偶々テレビを点けて、偶々、その番組が映った。
丁度映っていたのは1年ステージで、そういえば襲撃を受けたんだっけなと、少し興味を持って眺めていた。
第1種目の障害物競走で、────目を奪われた。
男は、この個性が蔓延する社会に身を浸して長く、実力者だって多く見てきた。
それだと言うのに、つい数ヶ月前まで中学生だった少女から、目が離せない。
隙のなさ。
無駄のない動きは、もはや芸術的でさえある。
そして、その瞳の冷たさ。
急所ばかりを狙うその姿勢も、流れるような動きで的確だ。
外しているのは、恐らく彼女の手加減だろう。
当てる直前に、僅かに減速しているのが判った。
俊敏な動きの彼女は、美しくさえ見えた。
相当な場数を踏んできたのだろう、かなり洗練されている。
そしてそこで、──────とある存在を思い出した。
丁度、5年前のことだったろうか。
──"梟"が生まれたのは。
確かあの頃、"梟"は10歳くらいだったはず。
するとどうだ、この少女と歳が同じくらいではないか。
──いや、まさか。
冷たい感覚が背中を走った。
裏社会で有名だった──────否、現在進行形で有名なあの少女が、ヒーロー科に在籍している?
なぜ?
目的は何だ?
それは判らない。
しかし彼女のことだ、明確な理由があるのだろう。
寒い感覚を味わいながらも、男は画面から目を離せない。
騎馬戦では特に目立つことなく、トーナメントに移行した。
そして少女が地味な顔の男子選手と戦い始め、やがて男は確信する。
──やっぱり、これは………
ピリリリリリ
スマホが着信を知らせた。