第9章 光と影、そして闇
コンクリートはさすがにひび割れなかったが、彼女の蹴りによって、風が巻き起こる。
ブォォォ、と髪が後ろに持っていかれる感覚を瀬呂は味わった。
障害物競走で見てはいたものの、やはり間近でこの風を受けるとやはり違う。
──ははっ、マジですげぇな…!!
クラスでは緑谷だけが増強型だと思っていたが、終綴もどうやら使えるらしい。
彼女の個性がどのようなものなのか、未だに本人は口を割らないけれど、とにかくパワー型なのは間違いなさそうだ。
───となると対人戦闘訓練の日のことが説明つかなくなるが、それ考えんのは後だ。
『依田、蹴りで瀬呂の攻撃を避けたーッ!!!!
さて、どうするよ瀬呂ォ!!?』
『公平な実況をしろよ』
そんな巫山戯た実況を聞きながら、終綴はフム、と考えた。
──今日は増強型一本って決めてるから…
──瀬呂とは、相性が悪い。
もし捕まってしまえば、手も足も出なくなってしまうだろう─────"あれ"を使わなければ、の話だが。
だが、それを避けたいのは事実。
自分の個性は、あまり─────いや、できる限り使いたくない。
特に、メディアの目があるこの場所では。
「…っなら、一発で決める!」
着地するのと同時に、瀬呂の脚を払った。
「………へ?」
間の抜けた声が頭上で聞こえる。
呆気にとられる瀬呂の腕を思い切り掴み、そのまま投げ飛ばした。