第9章 光と影、そして闇
最終種目はトーナメント方式の個人戦。
相手を場外にすれば勝ちだという。
───殺さないようにしなきゃ。気をつけよう。
戦闘の組み合わせを見れば、自分の初戦は瀬呂。
弱いイメージはないが、飛び抜けて強いイメージもない。
しかし、強い相手でないと、本気を出せば誤って殺してしまう可能性が多分にあった。
それだけは避けなければならない。
ヒーロー志望なのだから、殺人など、将来を自ら閉ざすような真似はできないのである。
ふ、と全身から力を抜く。
───個人戦なら、他クラスの生徒たちの個性を見る機会にもなるってわけだ。
───勿論、私の個性を見られる機会にもなっちゃうわけだけど。
緩やかに笑い、終綴は辺りを見回した。
『つーワケで、第1回戦!
緑谷と心操は控え室に移動してくれ!
他の選手たちは客席へゴー!!!』
アナウンスに従いながら、終綴は思う。
───さっきから、爆豪が凄く見てくる。
何かを探るような、静かな目だ。
その瞳に、はやくも終綴の脳内には警鐘が鳴り響いていた。
───早めに手を打てたらいいけど。
理由がどうであれ、自分のこの計画を潰されるわけにはいかないのだ。
何がなんでも、ヒーローにならなければ。
自分の容姿と個性なら、人気が出ることはほぼ確実だろう。
だから、───ここを卒業するまでの辛抱なのだ。
それまで隠していることができれば、あとはこちらのものである。
「依田さん、一緒席に行こう!」
麗日は能天気に笑っている。
ちらと一瞬考え、終綴は笑った。
「お手洗い行ってくるから、麗日さんは先に行ってて!」
クラスメイトたちに背を向け、爆豪の追うような視線から逃げるようにして終綴はその場を去った。
それから暫く、終綴はクラス席に戻ってはこなかった。