第9章 光と影、そして闇
「着地するよ!」
麗日の掛け声と共に下りる。
「さすがだよ依田さん!
さっきも見たけど、増強型の個性もあんなに使いこなせるなんて!!
すごいや!」
「…」
緑谷のキラキラした純粋な目に見つめられ、終綴の脳内スイッチが切り替わった。
再度深呼吸し、終綴は周囲の状況を把握せんと見回す。
葉隠がハチマキを盗られていたり、轟たちがハチマキをかなりの数貯めていたり。
爆豪はこちらに向かって来ているし、
─────と、そこで終綴の視界の端に飛び込んできたものは、珍妙なものだった。
これは騎馬と言えるのだろうか。
『さ~~まだ2分も経ってねぇが早くも混戦混戦!!
各所でハチマキ奪い合い!!』
そんな実況を嘲笑うかのように、その騎馬はこちらに迫ってきた。
───障子が背中を腕で覆ってるように見える。
───体格的に、ってかこういう事考えそうなのは峰田くらいだよね…。
───あと、蛙吹の姿も見てないし、ここにいるかもしれない。
「来る!」
すぐ隣に迫っている他クラスの騎馬との攻防は常闇と緑谷に任せ、終綴は声を張り上げた。
そして、終綴の予測を裏付けるかのように障子の両腕の隙間から、男子にしては高い声が聞こえてきた。
「アハハハ、奪い合い…?
違うぜこれは…
一方的な略奪よお!!」
「複数相手に囲まれるのは拙い!
距離置いて体勢立て直そう!」
しかし、終綴の忠告も既に遅し。
麗日が履いている運動靴が、地面から離れない。
「何!?取れへん!」
よく見ると、紫色のグミのようなものが接着剤の役割をしている。
「峰田だ!障子のとこ!!」
「っ…依田さん、いける!?」
───当然!
頷き、今度は地面を両の足で強く蹴った。
爆発したかのような轟音が響き、勢いよく終綴たちは飛び出した。
しかし、安心したのも束の間。
「調子乗ってんじゃねぇぞクソが!」
何故か騎手のみだが、爆豪が緑谷目掛けて飛んできた。
彼の後方を見ると、切島たちが走ってこちらに向かっている。
爆豪の暴走なのだろうか。
何がともあれ、これなら爆豪はすぐに騎馬に戻らねばならないはず。
「「常闇(くん)!」」
踏ん張りはきかないだろうと判断し、終綴は叫んだのだった。