第9章 光と影、そして闇
一直線に、ほぼ全ての騎馬がこちらに向かってきた。
「わぁ、イキナリ来ちゃった!!どうする緑谷!?」
「追われし者の宿命…選択しろ緑谷!」
決定を仰ぐと、逃げの一手!と返答があった。
───甘いな、私なら徹底して皆潰すのにね。
内心でそう呟きながらも、力強く終綴は頷いた。
ぬかるみ足が地面に沈んでゆく。
───…抜け出すか?
チラと緑谷を窺い、そして全てを委ねようと決める。
「あの人の個性か!
麗日さん、依田さん!!」
「「わかった!」」
麗日と声を揃え、終綴は拳を地面に向かって思い切り突き出した。
それによって生じた風圧により、騎馬は宙に飛んだ。
想定外の動きだったのだろう、目つきの悪い少年は呆気にとられている。
それより早く反応したのはクラスメイトである葉隠透だった。
「耳郎ちゃん!!」
「わってる」
騎手の言葉に応えながら耳郎がイヤホンジャックを緑谷たちへと伸ばす。
しかしそれは常闇の黒影により牽制され、封じられてしまう。
「すごいよ、かっこいい!!
僕らに足りてなかった防御力…それを補って余りある全方位中距離防御!!
すごいや常闇くん!」
緑谷の尊敬に満ちた声をぼんやり聞きながら、終綴は恋人を思い浮かべる。
───…あいつ、観てるかな。
いくら仕事が忙しいからとはいえ、恋人の活躍の場だ、観てくれているかもしれないと期待してしまう。
家族たちは観てくれているだろうけれど。
終綴にとって1番観てほしいのは、彼だというのに。
───ま、あいつらが観てくれてるのでも嬉しいけどね。
諦念に似た情を抱きながら、終綴は小さく笑った。
───ごちゃごちゃ考えるのは、あとでにしよう。