第9章 光と影、そして闇
前方を行くは轟のみ。
後ろには爆豪。
それより更に後ろは、まだ見えない。
どうやら自分たち3人が圧倒的らしい。
それでも、轟と自分にはだいぶ距離があるのだが。
──んー、これは。
目の前に広がるのは、いわゆる「綱渡り」ゾーン。
それぞれの絶壁同士の端を縄で繋いである。
距離は数百メートルほどだろうか。
決して短くはないが、長くもない。
そんな距離だった。
個性はあまり使いたくない。
だが、順位はこのくらいをキープしておきたいところだ。
4番以内にというのは完全に気分だったが、自分で決めたことは守りたかった。
蹴りや、パンチによって生じる風圧で進むというのも考えなくはなかったが、届かずに落ちてしまう可能性を捨てきれない。
──それは駄目だ。
目立ちたくはないが、この体育祭で有名なヒーロー事務所の目に付くことが目的なのだ。
こんな予選如きで落選していてはたまらない。
──地道に行くか。
爆豪はスロースターターだから、このままいけば抜かされてしまうだろう。
それに、「爆速ターボ」とかいう技を使えば、こんなものは一瞬で終わらせてしまう。
だが、それでも3番。
──ならいい。
綱に足を乗せた。
トン、トン、トン。
イメージするのは、サーカスの綱渡りだ。
…見たことはないが。
バランスを上手く取りながら走っていると、すぐ後方からあの爆破音が聞こえてきた。
「ンでてめーは個性使わねぇんだ!?
あ゙!?」
手ぇ抜いてんじゃねー!!
と怒鳴りながら、爆豪は終綴を追い越した。
『おぉっとぉ!?
ここで1-A爆豪、2位の依田を抜かしたァーーー!!?』
そんな実況を聞きながら、終綴も失速せずに走り続ける。
──バレてたか。
クラスメイトの認識で、自分の個性がどうなっているのかは判らないが、それでも手抜きしていることは判るらしい。
他の選手たちは自分のことで一杯のはずなのに、と冷静な爆豪が少し疎ましい。
10メートルほど先を行く爆豪を追うようにして、終綴は着地した。
次の障害物は──────地雷ゾーンだ。