第9章 光と影、そして闇
涼しい顔をして走っていく終綴。
前方に破片が飛ぶようにしたのは計算だったらしく、その殆どが轟に向かっていった。
轟にはギリギリ当たらなかったが、それでも脅威にはなったようで、彼は度々振り返りながらの競走となった。
その後を、終綴が追う。
それに加え、可動ロボットの数は出てきた数の半分ほどまでに減少した。
緑谷は愕然とする。
──今の蹴り、規格外すぎないか……!!?
終綴から聞いた話では、「一時的な」使用しかできないものだったはずだが、あれほど規格外の増強型もできるということか。
いや、そもそも、あれほどの個性を使える生徒がこの学校にいただろうか?
彼女の個性は、「他人から借りる」ものだったはず。
つまりは生徒、もしくは周囲────いや、観客にいるのかもしれない。
どうやって周囲の個性を知るのかとは思うが、家族が来ていると仮定すればそれは全く不自然ではない。
──あれ、僕のオール・フォー・ワンでも1つ壊すのでやっとだったのに…
自分も個性を使いこなせればできるようになるのかもしれないのだが、でもそれにしたって彼女の今の蹴りは規格外ではないだろうか。
終綴の破壊行動は、それを遥かに凌駕している。
…いや、でも今は。
──僕が他より劣ってるなんて、判ってたことじゃないか。
最初から、終綴は先生たちにさえ「別枠」として捉えられ、しかも入試は爆豪より上の成績で通過したのだ。
終綴が規格外なのは判っていた。
轟が非常に強い個性の持ち主であるのも、判っていたことだ。
彼は推薦入学者なのだから。
幼馴染の爆豪だって、言うまでもなく優秀だ。
今は終綴の後、3番目を走っている。
猛追とでもいうべきか、彼の勢いは凄まじい。
…目付きも凄まじいものになっているのだが。
その中で、自分が1番をとっていく────それが、厳しいことなのは知っているのだ。
自分は運良くオールマイトに見初められただけ。
個性だってまだ使いこなせないし、借り物の状態でしかないのである。
さて、自分はどうするか。
緑谷は、無意識の内に笑みを浮かべていた。