第5章 目を光らせて
『セキュリティ3が突破されました。
生徒のみなさんは速やかに校舎内に避難してください』
警報を聞き、思わず懐に手を遣ったが、避難すれば良いだけのようだ。
敵の侵入とは言われていない。
しかし警戒は解かず、腰を低くし懐の物をいつでも取り出せるようにする終綴。
慌てて逃げようとする生徒たちの波には乗らず、ゆったりと歩いていった。
人口密度の高い場所には、熱気が籠る。
そんなところは御免だった。
生徒たちは皆混乱していて、明らかに年上の者もそうであることからして、3年間で初めての事態のようだ。
──ま、そりゃそうか。
──セキュリティ万全にしとかないと、大切な大切なヒーローの卵が、台無しになっちゃうもんね。
それにしては、今日突破されてしまったようだが。
「皆さん!!!
大丈ーーーーー夫!!!!!」
一体何なんだと思って辺りを見回していると、宙を飛ぶ飯田が目に入った。
──何やってんの。
しかしそれは皆を落ち着かせるための奇行だったようで、周囲は一瞬で静かになった。
しかもこの騒動の原因は、マスコミだったらしい。
──マスコミ?
──……いや、冷静に考えてそれはおかしい。
その違和感に終綴は気付いた。
雄英は入校の際、身分証などのこの学校の関係者であることを証明するものがないと入れない仕組みになっている。
それを身につけていない者が入ると、セキュリティが発動し、ゲートが閉まるのだ。
マスコミといっても大勢が詰めかけたから大騒ぎになっているのだろうし、かと言って皆がそのような書類を持っているとは考えにくい。
──何故入れた?
何かが起こったというのに、それを知らないということ。
勉強は苦手だが、知らないことがどれだけ不利に働くかは判っているつもりだ。
そして、自分は不利な側に甘んじるつもりはない。
──調べてみるか。
昼休み終了のチャイムが鳴るのにも関わらず、終綴はこっそりとその場から抜け出した。
人目につかない場所まで、やはりゆったりと歩く。
後方で、「あれっ依田さんは!?」という緑谷の声が聞こえたが、今は聞こえないふりをした。