第13章 日陰者
「まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」
無難な慰めをする尾白。
補習はともあれ、合宿に行けるということで皆元気を取り戻していた。
「1週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね」
飯田と緑谷は配られた栞を見ながら話している。
「暗視ゴーグル」と横から呟く峰田は、いつも通り邪なことしか考えていなさそうである。
「水着とか持ってねーや、色々買わねえとなあ」
───水着………え、拙い…
栞は絶対に恋人に見せないようにしようと固く決意する終綴。
合宿というだけでも色々と「凄かった」のに、水着などと、彼に言えるはずがない。
「あ、じゃあさ!
明日休みだしテスト明けだし……ってことで
A組みんなで買い物行こうよ!」
葉隠はぱぁぁっと明るく提案した。
「おお良い!!
何気にそういうの初じゃね!?」
上鳴はノリノリである。
───……私も行こうかな。
───「雄英生徒」として動くべきだからね。
「おい爆豪、おまえも来い!」
「行ってたまるかかったりィ」
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
───爆豪も轟も来ないなら、親交深めるのも簡単だろうし、必要だし。
「終綴ちゃんは予定か何かあるん?」
「ないよ!私も行きたい!」
家族の為、とはいくら思っていても。
共に過ごす時間が長ければ長いほど、愛着が湧く───────ザイアンス効果。
知らなかったわけではない。
しかし、この時の彼女を、思慮が浅かったと評するのは酷だろう。
それでも、少しずつ。
女の鋭利なナイフは、ゆっくりと削がれていく。
温かい心に、溶かされるように。
しかしそれでも、女の感覚は鈍ることを知らない。
その矛盾がいつ、誰をどう揺らすのか─────それはまだ、誰にもわからない。