第12章 見え隠れするは爪か牙か
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「ごめん無理」
マイルドな言葉が出てきたことを、褒めて欲しいと終綴は思う。
普段通りなら何も言わずに相手を殺傷たらしめていただろう。
相手を放り投げてはいるのだが。
だがそれでも、手加減しているということを知れば、家族は驚くだろう。
「いっ……!?」
投げられた本人 ───峰田実は、痛みに呻いている。
どうやら背中を壁に叩きつけられたようで、苦しそうな涙目だ。
しかし彼は止まらない。
涙を湛えながらも、再び走ってきた。
両腕をこちらに真っ直ぐ伸ばし、涎を垂らしている。
「恥ずかしがるんじゃねぇよぉ…!
オイラと一緒にプルスウルトラしようぜ!!」
──プルスウルトラって…この学校の校訓か。
校訓が汚されている気がするが、そこにはツッコむまい。
愛しい彼以外に触れられるなんて、憎悪の対象でしかない。
だん、
地面を蹴った。
飛び上がり、真下にいる峰田を軽く薙ぐ。
何が起こったか分からないというような顔をする峰田にマウントを取った。
峰田の大腿を脚で強く押さえ、膝で腕を床に押し付けた。
筋肉により決して軽くはない体重を掛け、動きを完封する。
いつもの峰田ならこの体勢にすら悦び震えていただろうが、終綴の瞳を見て怯えていた。
個性把握テストが終わってすぐ。
クラスの男子に、話しかけられた──────ではなく、突然こちらに抱き着いてこようとしたのだ。
なんだコイツと思うより先に、体が動いていた。
本能的なものだろう。
自分には恋人がいるから、とか、断りの言葉を入れる暇もなかった。
「…触るな」
笑顔を作る余裕などなかった。
目は黒く鈍く、淀んだ光を宿していた。
───私は、いつでもこいつを殺せる。
ちらりとそんなことが頭をよぎる。
さすがに殺しはしないが。
「………」
峰田は怯えたように震えている。
そもそも、彼の言うプルスウルトラとは何か。
気にはなるが、終綴の知ったことではない。
こいつの事情など、自分には全く関係ないのだから。
個性把握テストでは反復横跳びで脅威の記録を出していたが、他は至って普通の成績だったと記憶している。
自分の警戒するべき相手でもないだろう。
…行動力は恐るべきものかもしれないが。
終綴は峰田を強く睨みつけた。
「次はない」
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