第11章 忍び寄った影は消える
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「そういや、依田ってどこ住みなん?」
上鳴の質問に、終綴はへらっと笑った。
流れで3人一緒に帰ることになってしまい困っているのだが、終綴はそれを表情には出さない。
「学校から3時間くらいのところ。
一人暮らしなんだけどね」
片道3時間って辛くね?
と言ったのは切島だ。
一人暮らしというのは、学校から近い場所に家を借りるものではないのだろうか。
些細な引っ掛かりを感じたが、突っ込むほどでもない。
そうでもないよ、と笑う終綴にそんなもんか、と頷いておく。
「2人は?
家、学校から近いの?」
「俺は30分くらい」
「近くはねーけど、それでも1時間くらいだな」
へー!と終綴は羨ましそうに目を輝かせる。
まるで仔犬が尻尾を振っているかのようで、その愛らしさに2人は赤面した。
顔立ちが整っていることもあって、一々、言動にドキドキしてしまう。
暫く3人は他愛ない話を続け、それから話題は体育祭に移った。
「そういやさ、体育祭、おまえ惜しかったよなー!」
「運動神経やばくね!?
スポーツとか、何かやってんの?」
2人からの称賛に、終綴は嬉しそうだ。
「ほんとに!?嬉しい!!
スポーツは何もしてないよ、家事の手伝いで忙しかったから」
家事の、手伝い。
女子らしい答えに、上鳴は歓喜した。
切島もすげぇ、と感心している。
「親、共働き?」
だから家事してんのかな、くらいの軽い気持ち。
しかし、返ってきたのは想像以上に重い答えだった。
「うち、お母さんいなくて、お父さん病気で寝込んでるからさ」
「………」
「………」
踏み込みすぎたか?
上鳴と切島は、気まずそうな表情を浮かべた。
それを鋭く察した終綴は、へらへら笑う。
「気にしなくていいよ?
お母さんいないのもお父さん寝込んでるのも、両方ともお父さんの自業自得らしいから」
らしい、というのは終綴はそれを誰かから伝え聞いたということだろうか。
父親に対して妙に厳しい気もするが、年頃なのだろうと納得する。
そして、終綴が新しく投げかけた問いに2人は飛びつく。
気まずい空気を、振り払うかのように。
「なんで、ヒーローになりたいと思ったの?」