第10章 灯る闇は光のように眩く
──殺しやすいのは、人目につかない路地裏。
だが正確な位置など判らない。
虱潰しに行くか、と終綴は怠そうにため息を吐いた。
そこで、胸ポケットが点滅していることに気付く。
取り出した端末が、着信を知らせていた。
「…はい」
周囲に声が響かないよう、小声で返すと、電話の主は「戦うのか」とだけ訊いてきた。
若い男の声だった。
こんな状況であるのに、終綴はその声に嬉しさを覚え、ふふ、と笑う。
「戦わないよ、見るだけ。
念の為、エンデヴァーとははぐれて来たけど」
『そうか。
…終わったら話は聞かせてくれ』
「もちろん。じゃ」
『待ってる』
そんな会話を短く交わしてから、電源を切った。
そして小走りに、轟の姿を探し回る。
それから数分──────…
「ちくしょう!!やめろ!!」
逼迫した声を、終綴の鋭い聴覚が拾った。
───10時の方角。
念の為、と足音を殺してそちらへ向かうと
──いた。
炎を纏いながら、緑谷たちを庇うようにして立っている轟の姿があった。
動けないのだろうか、緑谷は座り込んでしまっている。
飯田も倒れており、彼も戦っていたのだと判る。
知らない男も1人いたが、恐らくプロヒーローなのだろう。
悔しそうに、その表情は歪んでいた。
そして、轟の視線の先には────ヒーロー殺し。
──ビンゴ。
状況から鑑みるに、飯田が戦っているところで負けそうになって、緑谷が助けに来て、それから轟の登場、という順なのだろう。
飯田の兄はヒーロー殺しに襲撃されたはずだから、私怨で追っていたのかもしれない。
ヒーロー殺しの個性は知らないが、苦戦しているのだろう。
「依田さんも来てるの?」
急に自分の名前が出てきた。
少し驚くが、自分の存在に気づいたわけではないと思い直す。
「いや…あいつは、親父といるはずだ。
だから、俺らだけで飯田を助けるぞ」
──丸くなったなぁ。
轟の変化に苦笑しつつも、終綴は表情を引き締める。
丸くなったということは、それだけ冷静になったということ。目の前が晴れたということ。
憎しみに目が眩むことが、なくなったということ。
つまり、こちらのことに気付く可能性も高くなったのだ。
元より、緑谷だけでも危険な状態なのだ。
より一層、注意しなければ。