第3章 後編 王の願い 少女の想い
グルグルと纏まらない思考のまま、ユーリは走り続けていた。
自分でも理解できない感情に支配され、混乱していた。
ただひたすら、シャンクスが何を考えているか分からない。
その言葉だけが脳裏に過っていた。
愛し方が分からないと言っていた彼。
まさか、その練習の為に私を使っていたのか?
もしベンがその言葉を聞けば、それは絶対にないと否定していたが、生憎ここにはユーリしかいない。
考えれば考える程、悪い方向に思考が走る。
これまで、シャンクスに言い寄ってくる女など数えきれないほどいただろう。
年齢も年齢なだけあって、将来を誓い合った仲がいてもおかしくない。
そこまで考えて、ユーリはハッとした。
私は何を考えている?何故、傷ついている?
先ほどの光景を見て、僅かに心が痛んだのも事実だ。
だがそれを好意に結び付けていいものか、まだ分からなかった。
「どうしたんだ?そんなに走って?」
無意識に走り続けること少し、気が付けばレッドフォース号の前まで来ていた。
確か出発は昼過ぎだったと言っていたはず。
様子のおかしいユーリにベンは声を掛けるが、ユーリはそのまま船内へと入っていった。
これ以上ここで考えても駄目だ。少しだけ、時間が欲しい。
ユーリは適当に紙と鉛筆を探すと、急いで用件を書き出した。
こんな状態で、シャンクスには会いたくないし、正直逃げ出したい。だが仲間になると約束した以上、それを破るのも気が引けた。
だから、少しだけ時間を貰うことにしたのだ。
「ベン、この手紙をシャンクスに渡して欲しんだけど」
さっきから何やら騒がしいユーリに、ベンは内心嫌な予感しかしてなかった。
咄嗟に手紙の中身を見ようとしたが、シャンクスへの思いが書いてあって恥ずかしいから読まないでと釘を刺される。
「大丈夫。すぐに戻るから」
ユーリはそれだけ言うと、再び何処かへと行ってしまった。
その場に取り残されたベンは、手元の手紙に視線を戻し、深くため息を吐いたのだった。