第3章 後編 王の願い 少女の想い
ユーリは街並みを歩きながら、そういえば昨晩の出来事に誰も触れてこなかったことに気づいた。
恐らく気を使ってくれたのだろう。
正直、その気遣いはありがたかった。
ユーリはぼんやりと並んでいる雑貨屋を眺めながら足を進める。
特に何か欲しい物があるわけでもなかったが、何となく気分転換がしたかった。
脳裏に過るのは、昨夜のシャンクスとの会話。
昨日は勢いに任せて嫌いと言ったが、そこまで嫌っているわけでもない。
ただ、好きか嫌いかの2択で、更にあの状況なら、嫌いと言わざる得ないだろう。
じゃないと私がただのドMになってしまう。
いや、そもそも完全に嫌いに慣れてない時点で、似たようなものか。
マリンフォードで捕まって以降、それはそれは好き勝手にされた。
だけど結局は、何だかんだで受け入れて嫌いになれなかった。
だからと言って好きかと問われれば、それは首を傾げたくなるが。
ユーリはため息を吐きながら悶々と考え込んでいると、不意に見慣れた赤髪が目に入った。
その姿は、見間違えようもなくシャンクスで、ユーリは思わず足を止める。
店内にいる彼は、何かを真剣に見ているようだった。
ユーリは声を掛けるべきか迷ったが、昨晩の気まずさを引きづっていたので、静かにその場を離れようとした。
「あら、シャンクスじゃない」
ユーリが離れようとした時、綺麗な人がシャンクスに声を掛けていた。
振り返ったシャンクスに思わず身を隠したユーリは、そのまま2人のやり取りを見ていた。
何やら会話をしているようだが、少し離れている為よく聞こえない。
って何やってんだ私。盗み聞きなんてしてどうする。
そもそも見聞色を持つ彼が、ユーリに気づいている可能性を思い出し、慌ててその場を離れようしとした。
「…っ」
ユーリがその場を離れようとした瞬間、視界に入った二人がキスをしているシーン。
ユーリは一瞬その場で固まったが、逃げるようにその場から立ち去った。