第2章 中編 古代都市シャンドラ
浜辺に着くと強めの風がユーリの頬を撫でた。
この広大な海の先には何があるのか。
世界各地を動いていたユーリは、それを知っていた。
「何時かゆっくり旅に出るのも悪くねぇな」
ぼんやりと海を見ていると、不意にシャンクスが口を開いた。
「何処か行きたい場所でもあるんですか?」
「ん?そういうわけではないんだが…」
「海に出た瞬間、海王類に食われますがいいんですか?」
「ははっ、確かに違いねぇな。だが…」
シャンクスの瞳は何処までも続く海へと向けられたままだ。
そして掴まれていた手に力を込められた。
「おれは自由になりたいんだ。陸も悪くねぇが、海の果てに何があるのか見てみたい。冒険はいいぞー、楽しさしかないからな」
「いい年して、心は少年のままですか」
ユーリの辛辣な言葉に、彼は声を上げて笑っただけだ。
彼の夢に水を差すつもりはないが、どうしても余計なことを口走ってしまう。
彼の強さなら、海王類にも勝てるかもしれない。
だけど、彼が持つ病は…
「ユーリ」
物思いに耽っているとはっきりとした声で呼ばれた。
視線を向けて目が合うと、シャンクスは口角を吊り上げて笑みを浮かべる。
「おまえも一緒に来い。おれの一番最初の仲間としてな。おまえが仲間なら、相手が何であれ敵じゃねぇだろ?」
自信満々に告げられた言葉。
その言葉に、ユーリは何かが引っかかる。
…あれ、この人私のこと好きだと言ったなら…仲間でいいのか?…もっと、こう…別の…
「なんだ、仲間じゃ不満か?じゃぁ嫁だな」
悶々と考え込んでいると続けられた言葉にハッとする。
再び視線を合わせれば、人の悪い笑みを浮かべている彼と目が合う。
何だろう、完全に遊ばれている感じがする。
「…船長の嫁なんて恐れ多い。私は雑用係でいいですよ」
「おいおいつれないこと言うなよ。おまえを愛してるって何度も言ってるだろ?」
「はぁ…まぁそうですね」
「…ほんと、信用してねぇな」
視線を逸らし、何処か不貞腐れた様子の彼女。
先ほどの彼女の様子から考えると、少しは進展があったかと思ったが、中々一筋縄ではいかない。
…まぁ、ここから逃げねぇならまだいいか
シャンクスは苦笑を浮かべると、優しく彼女の頭を撫でてやった。