第4章 途方もない悪意
「うぐ、」
黒い霧の男は、ワープゲートの“個性”の持ち主だった。 生徒達はバラバラに各エリアに飛ばされ、舞依は土砂ゾーンで思いきり地面に叩き付けられた。
「大丈夫か、神宮寺」
自分だけ氷で防いだ轟は、舞依を見下ろして手を差し伸べた。 舞依は少し迷ってからその手を取る。
「大丈夫だよ、ありがとう。 それより此処は……」
「土砂ゾーンってところだな」
「土砂……」
確かにそうだ、と舞依は思った。 崩れた建物や土砂で流されてきた物が、視界いっぱいに広がっている。
「敵は……?」
「いや、今んとこは見てねぇ」
「そっか。 取り敢えず、広場に戻らないと」
「ああ。 向こうの方だな」
轟が歩き出し、舞依はそれについて行く。 動く度に揺れる赤と白の髪を見つめ歩く。
「っ!?」
「ハハッ……! 抜かったな、卵の嬢ちゃん!」
突如、舞依の足首が何者かに掴まれた。相手の“個性”だろうか______ 土砂の中に敵が潜んでいたようで、次々と姿を現す。
「神宮寺!」
(どうしよう……! 攻撃しようにも、加減が分からない!)
轟は氷結で敵達を拘束し、舞依の足首を掴んだ敵にもそうしようとした。
だが______
「おいおい、嬢ちゃん人質なんだぜ? それくらい分かってんだろ、ヒーロー?」
「っ……!」
ズルズルと土砂の中から出てきた小太りの男。 今度は右手で舞依の首を掴み、左手で持った拳銃で彼女の頭を小突いた。
(左利き……?)
「ごめん、轟く……」
「動くなよヒーロー気取りのガキが!」
舞依が謝ろうとした瞬間、銃音が響いた。 本物の拳銃だと知らしめるためだろう。 また2回音がした。
(あの銃……)
拳銃について知識の無い舞依にも分かった。 おそらくあれは、回転式拳銃だ。 1度に装填できる弾は5発まで。
(残りはあと2発……ガキだとなめられてるってことね!)
一か八か。 舞依は全身をガーネットで覆った。
「何だ!? このガキ!」
驚いた男は首から手を離した。 その隙に舞依は首も覆い、硬度を最高に調節する。
「クソが! 調子づくなよ!」
男は焦った顔で2発、舞依の胸へと弾を放った。