第7章 灯台下暗し
シェイドは戸棚の陰で息を潜めていた。
窓もなく蛍光灯も点いていない暗い廊下は、まさに闇。物理的にお先真っ暗である。しかし、暗い場所に慣れているシェイドにとって、そんな事はどうでもいい。問題はこの廊下にあの、ヒーローデクが居る事である。
『(大誤算だ……)』
シェイドは僅かに眉間に皺を寄せて、自分の下調べ不足を痛感した。
“彼ら” がこの町に来てからの約3週間、シェイドは夜から朝方にかけて “彼ら” の動向を見張っていた。春香の冴え渡る話術による近隣住民からの聞き込み調査もうまくいった。調査の結果も過不足無くまとめて分析した。計画も念には念を入れ、10は用意した。
にも関わらず、接触する筈のない人間と接触した。
『(雄英の人は頭脳や技術だけでなく、勘も日本一なんですか?)』
シェイドは何も考えたくなくなってきていた。
譬えそうでも本職はヒーロー。救わねばならない命があるならば動くのみ。それは相手も然り。
シェイドは一呼吸置いて、するりと闇に入る。そして、廊下を渡り切った。
突き当たりの古い木の階段を、足音も衣の擦れる音も出さずに上る。
ふと後ろを振り返ってデクを確認するが、こちらに気づいているのかいないのか、デクは階段には目もくれず廊下を歩いて行った。
『(……おかしい)』
シェイドは少しの違和感を抱きつつも考えを払い、目的の部屋の前に行く。
扉の隙間から光は漏れていない。