第6章 虎の少年
夜も大分更け、月明かりが綺麗に倉庫内に差し込んだ。
「却説、そろそろかな」
ガダンッー
敦君の後ろで物音がした。
「今…そので物音が!きっと奴ですよ、太宰さん!」
治ちゃんは未だに呑気に本を読んでいる。
「そうだね、風で何か落ちたんだろう」
治ちゃんが動かないなら、私も動く必要はない。そのままコンテナの上に座り脚をバタバタさせていた。
しかし、敦君の焦りは止まらない。
「人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「座りたまえよ、敦君。虎はあんな処からは来ない」
「如何して判るんです!」
治ちゃんは本を閉じた。
「そもそも変なんだよ、敦君。
経営が傾いたからって児童を追放するかい?経営が傾いたんなら一人二人追放したところでどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ」
「太宰さん、何を云って………」
敦君は月明かりに照らされる。
ドクンーと身体が脈を打つ。
「巷間には知られていないが、この世には異能の物が少なからずいる。その力で成功する者もいれば、力を制御できず身を滅ぼす者もいる」
身体の形が変わっていく。
「大方、施設の人は虎の正体を知っていたが君には教えなかったのだろう。君だけが解っていなかったのだよ。
君も『異能の者』だ。現身に飢獣を降ろす、月下の能力者ー」
鋭い爪と牙、獰猛な顔つき、その獣は正しく虎だった。