第6章 虎の少年
凡ての話を聞き終えた後、治ちゃんは少し考え込んでいた。
「敦君、これから暇?」
治ちゃんは思いついた様に敦君に尋ねる。
「君が『人食い虎』に狙われてるなら好都合だよね。
虎探しを手伝ってくれないかな」
「嫌ですよ!それってつまり『餌』じゃないですか!」
「報酬出るよ」
敦君の動きが止まった。そうだ、彼は一文無しだ。
「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に」
治ちゃんは国木田君に一枚のメモを渡す。
「おい、二人で捕まえる気か?」
「まさか。葉琉も連れてくよ」
お茶を啜っていた私はいきなり名前を呼ばれ慌てて治ちゃんをみた。
「私!?いや〜虎に勝てるかなー」
「何故嬉しそうなんだお前は」
国木田君は呆れ顔で私に言った。
「だってほら、虎と戦う機会なんて滅多にないからね!」
子供の様に目を輝かせる私に、国木田君はこれ以上何も言わなかった。
「あの〜ちなみに報酬はいかほど?」
「こんくらい」
治ちゃんが見せた金額に敦君は声が出なかった。
● ● ●
私達はとある倉庫街の中にいた。
「……本当にここに現れるんですか?」
完全自殺と書かれた怪しげな本を読んでいる治ちゃんに敦君が尋ねた。
「本当だよ」
敦君は未だ不安の表情だ。
「心配いらない。虎が現れても私達の敵じゃないよ。
こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」
治ちゃんの自信有り気な言葉に、敦君は項垂れる。
「凄いですね、自信のある人は。
僕なんか孤児院でもずっと駄目な奴って言われてて……こんな奴が何処で野垂れ死んだって、いやいっそう食われて死んだほうが…」
そんな敦君の頭を私は優しく撫でた。敦君は驚いて顔を上げたが、何も言わなかった。
「本当に、葉琉は誰にでも優しいね」
治ちゃんは私にも聞こえない声で呟いた。