第6章 虎の少年
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ガツガツと茶漬けを頬張る敦君の横で、私は呆れ顔で見つめていた。
(何杯食べるのよ。この子)
「おい太宰。早く仕事に戻るぞ」
私の向かい側に座る国木田君が大切な手帖をめくりながら言った。
「国木田君は予定表が好きだねぇ」
無関心な顔で治ちゃんが答える。国木田君は手帖を閉じ、机に勢いよく置いた。
「これは予定表では無い!理想だ!我が人生の道標だ。
そしてここには『仕事の相方が自殺嗜癖』とは書いてない」
その後口に食べ物を含み乍話し、何を言っているか理解出来ない敦君と国木田君の会話があった。
「…二人とも如何して会話出来るの?」
その光景に私は呆れ顔で呟いた。
そんな事をしていても、丼が山になる程の茶漬けを平らげていた。
「はー食った!もう茶漬けは十年は見たくない!」
満足そうにお腹を撫でる敦君。
「済みませーん。私も茶漬け下さーい」
余りにも美味しそうに茶漬けを食べる敦君を見ていると、お腹が空いてしまった。
「葉琉、お前まで…」
国木田君が頭を抱える。
「ほら、腹が減ってはなんとやらと言うでしょ?
それに、自分の分は自分で払うよ。
あ、有難う御座います」
そう言って運ばれて来た茶漬けを頬張り始めた。
「え!?国木田君、葉琉にお金を払わせるのかい!?」
信じられなーいと治ちゃんが大袈裟に驚く素振りを見せる。
「五月蝿い、太宰。おい葉琉、伝票此処に入れておけ」
「有難う!国木田君」
国木田君は苛立ちを見せながら眼鏡の位置を指で直した。
「ほんっとーに助かりました!孤児院を追い出され食べるものも、寝るところもなく……あわや斃死かと」
「ふうん。君、施設の出かい?」
敦が切り出した話に治ちゃんが尋ねた。
「……追い出されたのです。経営不振だとか、事業縮小だとかで」
「それは薄情な施設もあったものだね」
「おい、太宰。俺達は恵まれぬ小僧に慈悲を垂れる篤志家じゃない。仕事に戻るぞ」
国木田君の言葉に、次は敦君が反応を示す。
「お三方は…何の仕事を?」
「なぁに、探偵さ」
「探偵と云っても、猫探しや不貞調査ではない。斬った張ったの荒事が領分だ」
「敦君、異能力集団『武装探偵社』って知らない?」