第6章 虎の少年
「おぉーい!」
河の対岸から男の声がして三人は振り向いた。
「こんな処に居ったか唐変木!
葉琉も見つけたら連絡を寄越せ!」
「国木田君、ごめんねーー!」
葉琉は対岸の眼鏡の男に向かって謝罪する。
「おー国木田君、ご苦労様」
流されていた男は大きく手を振っている。
「苦労は凡てお前の所為だ!この自殺嗜癖!
お前はどれだけ俺の計画を乱せばーー」
「そうだ君、良いことを思いついた。彼は私達の同僚なのだ。彼に奢ってもらおう」
「治ちゃん…」
流されてた男は対岸の男の話を全く聞かずに敦に提案した。その提案を聞いていた葉琉は頭を抱えていた。
「君、名前は?」
「中島…敦ですけど」
男は身を翻し歩き出した。
「付いて来たまえ、敦君。何が食べたい?」
「あの………茶漬けが食べたいです」
男は驚いた表情で振り向いた。そして、吹き出すように笑い出した。
「ねぇ葉琉、聞いたかい?餓死寸前の少年が茶漬けをご所望だ!
良いよ。国木田君に三十杯くらい奢らせよう」
「俺の金で勝手に太っ腹になるな太宰!」
国木田君と呼ばれた対岸の男は遠くから判るくらい怒っていた。
「…太宰?」
「あぁ、私の名だよ。太宰、太宰治だ。
そしてこの子は…」
「私は萩原葉琉。宜しくね敦君」
四人はそのまま敦がご所望する茶漬けが食べられる店に行った。