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明るみの花【文豪ストレイドッグス】

第15章 DEAD APPLE


「もう逃さない」

籠の中で、敦は澁澤に告げる。振りかぶった拳で、澁澤を撃ち抜く。何度でも、何度でも。敦は繰り返し拳を振るい、爪を突き立てる。
のたうち回りながら、澁澤が笑い声を上げた。距離を詰め、敦の顎を蹴り上げる。

「死して尚感じるこの歓喜……君にも伝わるかい!?」

澁澤の額にある結晶体が強く輝いた。光線となって羅生門を破り、衝撃波を生む。気付けば、あたりの赤い霧を集めた澁澤が、敦と自信を赤い球体で覆っていた。

「すべての異能に抗うその輝きを、今一度、私に見せてくれて!」

澁澤の結晶体が再び赤く輝く。光を浴びせられ、敦の身体がゆっくりとかたちを変えられる。
虎の力が消えて行く。かわりに敦の身体から浮かび上がるのは、青白い異能結晶体だ。

「さぁ!その異能を私に!」

「違う!」

敦が大声で叫んだ。魂を込めて宣言する。

「それは異能じゃない、僕自身だ!」

全力で抗い、必死に手を伸ばす。敦の手が青白い異能結晶体を掴んだ。
手のひらから熱が伝わる。奪われかけた力が全身に戻ってくる。蒼い光は敦を包み、再び白虎を宿らせる。
敦はそのまま澁澤の頭を両手で叩き潰そうとする。澁澤の両手が阻み、互いの腕を掴みあった。
敦と同じように必死な顔で、澁澤が呟いた。

「……今、全てを理解した。君がここにいることも、君が私の前に現れた理由も、そして彼の言葉の真意も」

罅が入るように、澁澤を侵蝕する影があった。黒い影に侵されながら、澁澤は笑う。

「君が……私を救済する天使か……」

ぼろぼろと澁澤の身体が崩れていき、影に呑み込まれる。全てが光と影に溶けてしまう。
敦の手に残ったのは、爪痕がついた髑髏だけだ。
すべての矛盾をかき消すように。過去を過去に返すように。敦は髑髏を握り潰す。燐光が走り、敦の手から蒼い光が生まれる。

光は敦を中心に広がり、澁澤の作った霧を呑み込んでいく。全てを浄化するような、美しい光だった。

空を見ると、東のほうが白み始めている。
ーー長かった夜が終わり、朝日が昇ろうとしていた。


手のなかから生まれた蒼い光を見届け、敦はそっと地上に降り立つ。ほっと息をつき、心配そうな鏡花に微笑みかけた。強張っていた鏡花の表情が、ゆっくりと和らいでいく。何も云わず去っていく芥川の背が、視界の端に見えた。
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