第15章 DEAD APPLE
直撃を耐え、一旦距離をとった澁澤が唇を歪めた。
「君の存在を私に告げた露西亜神は云った。龍が異能の持つ混沌本来の姿だ、と。ならば、白虎を纏う君は、すべての異能に抗う者だな」
獣の影が蒼く光り、人の姿をかたちどる。虎から人へと姿を変えた敦が澁澤の前に立ちふさがっていた。
敦の身体の傷は虎の能力によって既に癒えている。虎の爪を構えた。
「また私を殺すのかね」
「あるべきものをあるべき場所に戻すだけだ」
言葉とともに敦が跳躍した。凄まじい速度で飛びかかり、澁澤を殴りつける。澁澤が殴りつけた敦の腕をつかまえた。
「私はついに生きる意味を理解したぞ!」
敦は澁澤の手を振り払おうとするが、それよりも早く蹴りを打ち込まれた。威力を受け止めきれず、後ろに弾き飛ばされた。地面が削られ、土煙があがる。
澁澤に蹴り飛ばされた敦をみて、芥川が苛立たしげに歯噛みした。
敦は澁澤を睨みつけ、思考を巡らせる。
澁澤は強い。まさに、人あらざる力を持っている。敦も芥川も鏡花も、澁澤には勝てない。ならば、どうするか。
「……三人で力を合わせないと、僕らの居場所を守れない」
決意を込めて、敦は呟く。
鏡花が慄くように瞳を揺らした。
「鏡花、人虎」
芥川が二人を呼ぶ。ふらつく足取りで立ち上がり、芥川は敦と鏡花を見据えた。
「判っているな……何をすべきか」
敦が頷く。
大切なものを守る為に、敦は雄叫びをあげて澁澤に爪を立てる。
澁澤が赤い瞳を細めた。
「その青さも美しい」
敦と澁澤が再び対決する。
意を決して、鏡花は喉を震わせる。
「夜叉白雪!!」
霧のなかに花弁が舞う。澁澤が振り返る隙も与えない。夜叉白雪の刃が澁澤の胸を貫いた。
夜叉白雪の刀によって、澁澤は地面に磔にされる。
すかさず、敦が叫ぶ。
「芥川!」
「僕に命令するな!」
芥川が怒鳴り返しながらも、黒布を騒めかせる。芥川の背後から数十本の黒刃が繰り出され、磔にされた澁澤のもとへ向かう。黒刃の奔流は籠となり、澁澤を閉じ込めようとする。籠が閉じる直前、駆けた敦が滑り込んだ。