第15章 DEAD APPLE
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葉琉の目の前にいる男は、六年前両親を殺した男だった。この男が直接手を下した訳では無いにしろ、この男が引き連れて来た連中によって殺された。
「アンタが……!」
葉琉の内に湧き上がるのは赤黒い殺意。殺意は葉琉の力となって能力を引き上げた。
今にも飛びかかりそうな葉琉の視界に、荘子とは別の人物が入る。先刻まで眠っていた葉月が、ふらふらと立ち上がった。
「葉月…」
葉琉の呟きを聞いた荘子も、後ろを振り返り「ほぅ…」と唇を歪ませる。
「随分と楽しそうですね。是非、私も混ぜて下さいな」
口元に不敵な笑みを浮かべ歩き出す葉月に、葉琉は目を見張り、荘子は笑みで返す。
「呑気な眠り姫様だね」
「でも、待ってて下さったのでしょう?」
葉月は荘子の横を抜けて、葉琉の元まで歩み寄る。荘子も特に、その動きを止める真似はしない。
「あぁ、待っていたとも……」
葉月は葉琉の横に立つと、向き直り、荘子を一瞥する。その瞳は何の感情も宿してはいない。
「葉琉、終わったらちゃんと説明もする。だから、いまは力を貸して」
葉琉の中で膨れ上がっていた感情が徐々に萎んでいくのを感じた。幸い、能力は留まっており、いつでも戦闘態勢に入れることは自覚している。
「……治ちゃんも葉月も、本当に勝手で、突っ走って、尻拭いをする私と中也の気持ちも察して欲しいよ」
「でも、無事で良かった」と微笑む葉琉の頭を葉月は優しく撫でた。
「それで、如何したらあの不死身さん倒せるの?」
戦闘は葉琉の専門だ。葉月に作戦があるならそれに従う。準備運動をする葉琉に、葉月は真剣な声色で「これは私の我儘だから」と切り出す。
「葉琉は何も気にしなくてもいい」
葉月が葉琉の手を掴む。
「過去より来りて未来を過ぎ久遠の郷愁を追ひくもの
いかなれば滄爾として時計の如くに憂い歩むぞ」
葉月ひとりの声が響く。葉琉と葉月、二人の技。【漂泊者】の調べ。二人で引き出す筈の技は、握った手を通して葉月に強制的に引き出された。
時が、静かに氷つく。