第15章 DEAD APPLE
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骸砦が崩壊を始めた。床が割れる。天井が落ちる。
「これは拙いね」
荘子は身を翻し、葉月を抱える。そのまま崩れる落ちる床の破片を足場にして移動を始めた。
「一寸!」
葉琉も脚元に氷を出現させ、荘子を追いかける。荘子は不安定な破片の上を器用に渡っていく。
「何なのアイツ……」
先刻の不死身宣言と、この人間離れした身体能力。葉琉は益々荘子への疑問が増えていった。しかし、今はこの崩れる塔からの脱出と葉月の奪還が優先だ。氷で足場を形成し後を追う。
外に飛び出した瞬間、赤い霧が目に入った。咄嗟に躰の周りを覆うように能力を発動する。上方から纏うように発生させた強い冷気は躰を包むように空気を下降させ、薄いベールの様になる。霧は葉琉の周りの下降する空気の流れで触れずに通過する。
崩れた骸砦の跡地に、葉琉は荘子を追う様に降り立った。荘子は瓦礫に葉月を座らせる。
「器用なことするね」
霧を避ける葉琉に、荘子は目を丸くして驚いていた。
「雑談は結構です。貴方は死なない。私を殺す気も無いですよね。なにが目的ですか?」
すっと構える葉琉に荘子は先刻と同じように笑みを浮かべる。そして、「目的があるのは君だろう?」と嘲笑う。
「私は葉月を返して欲しい。私じゃ貴方をしょっ引けない。消えるなら消えて下さい」
「やれやれ」荘子は首を横に振る。「違う。答えは君の記憶の中だ」トントンと頭を指で突く仕草をする。
「私の記憶……?」
「やぁ」
荘子は囁く。
「葉琉ちゃん」
記憶の奥に語りかけるように。
「大きくなったね」
最後ににっこりと笑いかけた。
ーー「やぁ葉琉ちゃん。大きくなったね。お父さんとお母さんはいるかい?」
六年前、私達の運命を変えた日。同じ笑顔をみた。何故いままで忘れていたのだろう。あの時、私は遭っていた。この男に。その後直ぐにお父さんに引っ張られて奥へ連れてかれた。お母さんと葉月がいた。お母さんは私と葉月に「逃げなさい」と告げたんだ。私は葉月に手を引かれ裏から逃げた。二人で全力で走ったんだ。ーー
「貴方は……あの時の……」
葉琉は思い出した。目の前にいる男こそが、何もかもの元凶だと。