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明るみの花【文豪ストレイドッグス】

第15章 DEAD APPLE


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太宰の口内で何かが弾けたような音がした。まるで、仕込んだカプセルが、殴られた衝撃で潰れたような音。

やがて、汚濁に侵された中也の頰に、長い指が触れる。途端、中也の能力が無効化された。

「……私を信じて『汚濁』を使ったのかい?泣かせてくれるね……」

落ち着いた声が響く。それは、つい先程まで死亡していた筈の太宰の声。

「ああ、信じてたさ。手前のクソ忌々しい生命力と悪知恵をな」

太宰が殴られた頰に手を当てつつ、薄く笑った。

「白雪姫を目覚めさせるには、少々乱暴な方法だったね」

「殴られるのを見越して、口の中に解毒剤仕込んでやがったくせに……それに、生憎手前のお姫サマは仕事中だ。後で口付けでも何でもしてもらえ」

中也が嫌悪も露わに吐き捨てる。「葉琉なら殴りそうな気もするがな」と付け加えた。

何もかも、太宰の想定した通りだった。

太宰の躰が残骸へと降り立ち、さらに上から中也が落ちてくる。折り重なるようにして太宰の上に乗ってしまった中也が、力の入らない躰を必死に動かし太宰の上から去ろうとする。

「動くな」

動かないように太宰の手で頭を押さえつけられ、中也が顔を歪める。周囲を見渡し乍、太宰が告げた。

「霧がまだ消えていないようだ。この状態で君の異能から君を守るなんて状況は御免こうむりたい」

太宰の言葉に、中也がぴくりと眉を動かした。

「……まだ終わってねェのか」

「ああ。……恐らくここからだ」

太宰が真剣な表情で頷く。

「くそ……この霧も、だが……自分の女一人……助けに、行けねェとはな…」

中也が悔しげに呻き、起き上がろうとする。けれど、太宰に押さえつけられていることもあり、動けない。

「もう指一本……動かせ、ねェ、ぞ」

それが限界だったのか、中也が気を失う。気絶した中也を一瞥して、太宰は骸砦の残骸に視線を向けた。塔の先端にいる誰かを見据えるようにして、太宰は呟く。

「ここまでは読んでいた……けれどこの先は、彼ら次第だ」

少し視線を落とし、心配そうに続ける。

「其方も、舞台は整ったようだね。此処からは葉月ちゃん、君の台本だ」


夜はまだ明けてない。宴はまだ終わっていない。
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