第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「てんめぇ〜 タダで済むと思うなよ!?」
「アニキ、殺(ヤ)っちまいやしょうぜ!」
「……いや、待て」
今にも飛び掛かって来そうな子分達を制し、リーダーが俺をギロリと見据えた。
「お前、一体 何モンだ…?」
「ただの客です」
「あ? 嘘をつけ」
「本当です。食堂のご主人の計らいで、たまたま運良く食事にありつけただけの」
「にしちゃ、随分と妙な動きするじゃねぇか」
「………」
リーダーだけは違和感を感じてるらしい。
でも俺は嘘を付くのが得意じゃない、だからこれ以上は無言を貫く。
「ふん、まぁいい。大人しく莉菜を渡すつもりがねぇんなら、どのみち痛い目見ることになる。…おい お前ら」
「へい!」
「存分に遊んでやれ」
「ヘッヘッヘッ… そうこねぇと」
リーダーのゴーサインが出ると子分達は嬉々として俺と莉菜さんを取り囲んだ。
「お客様、私は大丈夫ですから逃げて下さい!」
本当は怖くてたまらないはずなのに、莉菜さんはこんな状況でも俺を気遣ってくれる。
「ありがとう。でもこれだけ強そうな人に囲まれたら逃げるのは難しい」
「えっ!?」
「喧嘩はあまり気は進まないけど、やれるだけやってみる。君は下がってて」
逃げはせず、あくまで一般人として応戦することを公言してファイティングポーズを構える。
「ヒュゥ〜 兄ちゃん、カッコつけてるつもりだろうが顔がこわばってるぜ〜?」
「ひょっとしてチビッてんじゃねぇのかー!?」
「ハッハー! だっせぇーーー」
ジリジリ距離を詰めながら俺をディスり始める子分達。
(恐怖で顔がこわばってる、か……)
残念ながらその推測は不正解。
表情筋が動かないのは両親からの遺伝だし、お漏らしもしていない。