第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
ご主人が女将さんを負ぶって店を出た後、店頭には『準備中』と書かれた看板が掛けられた。
莉菜さんは俺を座らせお茶を出し、たすき掛けをしながら厨房へ入って行く。
うどんを頂いたらすぐに確認だ。
あの日、京都に居たのは…
俺を助けてくれたのは君なんじゃないかと。
(ガシャガシャパリーン!)
(ゴトンッ!びしゃぁあっ)
「?」
何だろう、
厨房から不自然な音が聞こえてくる。
数十分が経過してやっとその音が止み、莉菜さんが出て来た。
「はぁ、はぁ、大変お待たせしました…っ! きつねうどんになります!」
確かにうどんにしては時間がかかり過ぎてる。
そしてなぜ息切れを…?
慣れない調理場で何か悪戦苦闘してたんだろうか。
いろいろ腑に落ちない点はあるけれど、テーブルに置かれた鉢から鰹ダシの良い香りが漂い食欲中枢を刺激される。
「ありがとう。遠慮なく頂きます」
さっそく箸を付けると…ー
(プツ)
うとんを持ち上げた拍子に麺が千切れ、ポチャッと下へ落ちてしまった。
(これはまさかのまさか…… のび切ってる)
少し行儀は悪いけど、鉢のフチに顔を近づけて何とか口に入れる。
(ふー、ふー、ズズ…)
「………」
うん。
コシは無いに等しい。
たいして噛まなくても口の中で蕩けていく。
「お味はいかがですか…?」
莉菜さんは自信無さげに俺に感想を求めてきた。
「美味しいです。優しい食感ですね」
味は本当に美味しい。
それにこれなら歯のない御老人や乳幼児でも食べやすいな。
そんなことを思いながら次にカマボコを摘まむ。
ところがーー