第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「何かあったんですか?」
声を掛けると、俺に気付いた莉菜さんが歩み寄って来て申し訳なさそうに告げる。
「それが、女将さんの腰が急に痛くなっちゃって」
「腰痛ですか? 大変ですね。すぐ医者に診てもらわないと」
「はい、今から旦那さまが女将さんに付き添ってお医者様の所に… なので お店を一旦閉めようとしてたところなんです、すみません」
「ったくよぉ、せっかく来てくれたってのに申し訳ない!」
莉菜さんだけでなく後ろにいたご主人にもペコペコ頭を下げられる。
突然発症するギックリ腰には俺の祖母も悩まされてた。
何か手助けを、と頭をよぎったものの… ご主人が居るなら俺に手伝えることはなさそうだな。
「分かりました。女将さん、お大事になさって下さい」
これ以上気を遣わせないようにと踵を返しかけた時、
「やっぱり待って下さい!」
莉菜さんの声でピタリと足が止まる。
「温かいおうどんなら、ご用意できますけど!」
「え…?」
「私に出来るのはそれくらいしかなくて… でももし良かったら」
つまりは留守を預かる莉菜さんがご主人の代わりに調理を?
「ちょっと 莉菜ちゃん、あんた大丈夫なの!?」
女将さんがハラハラした様子で莉菜さんに尋ねる。
「大丈夫です! うどん出汁は旦那さまが作ってくれたのがあるし。 麺を茹でるだけだから私にもできますよ!」
「確かになァ。腹を空かせて来て下さったお客さんに何も出さずに帰ってもらうのも…… よし! あんたさえ良けりゃこの子のうどんを食って帰ってくれ。もちろん代金は要らねぇ」
「…いいんですか?」
「いいも何も、どのみちオレが戻るまで今日は商売にならねぇし遠慮は無用だ」
俺としては願ってもない提案だった。
女将さんが苦しんでるっていうのに不謹慎極まりないけど、莉菜さんと二人で話ができるまたと無いチャンス…ーー
ここはお言葉に甘えよう。