第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「すみません。 お会計を」
「はーい!」
定食を平らげ、他の客と同様に莉菜さんを狙って声をかける。
「ありがとうございます! ひぃ、ふぅ、み… ちょうどお預かりしますねー」
「あの」
「え?」
「ちょっといい? 君は…ー」
勘定の際、隙をついて話しかけてみた。
緊張の一瞬だ。
だけど…ーー
「莉菜ちゃん! 参(3)番のお客さんがお待ちだよ!」
そこへ運悪く、女将さんの声が飛んでくる。
「はぁい、すぐ行きます! ごめんなさい、行かなきゃ」
「気にしないで。御飯、すごく美味しかったです。ご馳走様でした」
何も仕事中に軽々しくする話でもない。
焦る心を落ち着かせ、その日は店を後にした。
ーーー
考えを改めた俺は翌日から鶴亀食堂に通い続けた。
不審がられないようにまずは莉菜さんに俺の顔を覚えてもらおう、話はそれからだ。
「こんにちは」
「いらっしゃ… あっ、こんにちはー」
甲斐あって4日目には自然と挨拶を交わす仲に。
手ごたえを感じ、そろそろ本格的な接触を試みようと考えていた5日目…ーー
事件は起こった。
その日はたまたま用があったため、昼を大幅に過ぎて食堂を訪れると…
「いたたたた、はぁ〜 参った!」
暖簾をくぐるなり目にしたのは顔を歪めて脂汗をかく女将さんの姿だった。
(一体 何事だ)
ランチタイムのピークを過ぎて客の居ない店内、その真ん中で女将さんはテーブルを支えに辛うじて立っている。
傍らには食堂のご主人と莉菜さんが心配そうに佇んでいた。