第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
テキパキと給仕に勤しむ女性に集中すること数分。
(ふむ…)
顔立ちは限りなく似てるけど髪型が違う。
いや、髪は切った可能性もあるし参考にならないか…
脳内会議を繰り広げながら組んだ手で口元を隠し、怪しまれない程度に視線を送り続ける。
「お待たせしました! 失礼いたしまーす」
しばらくして料理が運ばれてきた。
「ご注文はお揃いですか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ!」
女性は定食の盆を置いてすぐ身を翻し、他の客の注文を取りに行く。
(随分忙しそうだ)
ホールには女将さんを含めて二人居るけど、比べてみれば彼女の仕事量は圧倒的に多い。
なぜならーー
「ネェちゃん、酒をくれんか〜」
「はいはーい!」
「刺身定食まだですかー」
「はーい、ただいま!」
こんな風に鼻の下を伸ばした男性客がこぞって彼女を呼び止めるからだ。
なるほど、噂の看板娘はこの女性で間違いない。
「莉菜ちゃん〜 今日も可愛いねぇ」
「またまた。そんなこと言っても何も出ませんよ!」
……『莉菜』
名前は、莉菜さんと言うらしい。
莉菜さんは忙しなく仕事をこなしながら客のくだらない戯れにも笑顔で対応していく。
テーブルからテーブルへ…
まるで花から花へと舞う蝶のように。
(不思議だ)
苦手な蝶を連想しても全く嫌な気持ちにならない。
それどころかやけに惹きつけられて目が離せなかった。