第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
「確かに混んでるな…」
聞いた通り、食堂の店先には順番待ちの客が列を作っていた。
並んでるのは若者から老人まで年齢層はバラバラ、だけど全員"男"だ。
とりあえず最後尾に並ぶと、前に居た初老の男性に話しかけられた。
「兄ちゃん見かけねぇ顔だな。ひょっとして看板娘目当てで来たのかい?」
「いえ。俺はそういうわけじゃ」
看板娘… よっぽど人気があるらしい。
男性客が多いのはそのせいか。
しばらく待ってると暖簾(のれん)から店の人が顔を出した。
「お待たせしてすみませんねぇ、お次のお客さんどうぞ!」
この人が看板娘、
というわけじゃなさそうだな。
身なりからして女将さんだろうか。
案内されて混み合う店内を移動、席に座りメニューを開く。
(お腹すいたな)
定食の欄に目を走らせていたその時。
「いらっしゃいませ! ご注文お決まりでしたらお伺いします」
斜め前から女将さんとは別の透明感のある声が聞こえ、テーブルにお茶の入った湯のみがコトンと置かれる。
「えっと… じゃあこの"本日の焼き魚定食"を」
「はい、焼き魚定食ですね」
「ちなみに本日の魚っていうのは」
「鰆のネギ味噌焼きになります。味噌焼き、お嫌いじゃないですか?」
「大丈夫です。ありが…ーー」
!
メニューに落としていた目線を何となく上げて声の主を仰ぎ見た瞬間、
心臓が止まるかと思った。
「…っ」
すごく似てる。
ワームホールで離れ離れになった、あの女性に。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「…はい」
「しばらくお待ち下さいね」
滅多に動揺しない俺が1ミリも動けない、
それほどの衝撃だった。
すぐにでも話しかけたいところだけど警戒されても困るし…
(ひとまず様子見しよう)
食事が提供されるまでは注意深く観察することにして、先に温かいお茶をすすった。