第15章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/後編
稲光と共に雷鳴が轟く。
互いの手を取り合い、真っ暗闇の中を得体の知れない『何か』から逃れるように走る。
『はぁ、はぁ、はぁ、』
『早く、こっちへ!』
一緒に行こう。
安全な場所に、早く…ーー
『だめ、危ない!』
(ドンッ!!)
………
……
…
「っ!」
フッと電源が落ちたように映像が途切れる。
(またこの夢か…ーー)
何度か瞬きしてから手の甲で額の汗を拭った。
時折、同じ夢を見ては同じ箇所で目覚める。
(あの時の彼女は一体どこに)
考えると胸がモヤモヤする。
(どうか無事で居て。俺が探し出すまで)
重い身体を起こし、布団から出て身支度をし始めた。
ーーー
タイムスリップしてから4年の歳月が過ぎた。
大学院生だった俺が いまや上杉謙信お抱え忍集団の一員として諜報活動に精を出す日々。
人生、何が起こるか分からない… それを身をもって体感した4年間だった。
ーーー
謙信様の命令で安土に潜伏して数日、
町人に紛れて生活し織田軍の動向を探っていたある日のこと。
鍛冶屋で用を済ませた際、小腹がすいていた俺はこの辺にオススメの食堂は無いかと店主に尋ねた。
「それなら通りの先に"鶴亀食堂"ってのがある。安くて美味い上に ひと月ほど前から働き出した看板娘が人気でね」
「そうなんですか。安くて美味しいのはありがたいな」
「いま時分、少し混んでるだろうが行ってみるといい」
「ありがとうございます。行ってみます」
看板娘には興味はない、でも混雑は俺にとっては都合が良かった。
人が集まるところには情報が溢れてる。
食事しながら情報収集できるなら一石二鳥だ。
鍛冶屋の店主に礼を言い、その鶴亀食堂へと向かった。