第14章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/前編
「おい… 堂々とイチャつくな。お前たちの関係を認めるには認めたが信長様の御前だと言うことを忘れるなよ?」
どこからともなく割り込んできた秀吉さんにクギを刺されてしまった。
「すみません、以後なるべく気をつけます」
「なるべくじゃダメだ、絶対的に気をつけろ。それから…ーー」
「秀吉」
苛立つ秀吉さんを制止させるように信長様が口を挟む。
「は、」
「今日はこやつらの祝いの席だ。大目に見てやれ」
「…っ、承知致しました。佐助、信長様の寛大な御心に感謝しろよ」
ーーー
程なくして料理と酒が出揃い、信長様による乾杯の発声と共に宴が始まった。
宴の最中は秀吉さんに小言を言われることもなく、それどころか酒を注いでくれたり料理を取り分けてくれたりとまるでお兄さん…
いや、時に母親のように世話を焼いてもらい終始穏やかに過ごすことが出来た。
謙信様に仕える俺にとってここは完全にアウェーな空間なはず。
なのにやけに居心地がいいのは安土軍の誰もが俺に興味を持ち、気さくに接してくれるからだろう。
「この天ぷら美味しいねぇ」
「そうだな。ミ●ュランガイドの三つ星レストラン顔負けの味わいだ」
憧れの武将達と酒を酌み交わしながら隣に座る莉菜さんと何気ない会話をする…
すごく楽しくて幸せだ。
…けど、ちょっとアルコールが回って来たな。
「ふぅ」
周囲がワイワイ盛り上がる中、小さく息をつくと莉菜さんがすぐに気付いてくれた。
「佐助くんだいじょうぶ? 飲み過ぎたんじゃない?」
「ありがとう、まだ平気だけど少し酔ってきた。君は?」
「ん〜… 私もけっこう限界かな」
「なら酔い覚ましに外の風に当たりにいこうか」
「うん、そうだね!」
ーーー
「きゃ! すごい風」
信長様に断りを入れ、天主奥にある現代で言うバルコニーのような屋外の板間に出た。
湿気を含んだ生ぬるい風が莉菜さんの髪を舞い上げる。