第14章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/前編
「大丈夫? 」
欄干まで来たところで乱れた髪を手櫛でとかし、耳に掛けてやった。
強風を怖がらないようそっと手を繋ぐと、
「ありがと… 風、きついね」
莉菜さんはフワリと顔を綻ばせる。
そして一度 深呼吸をした後、
「でも拍子抜けしちゃった。こんなにすんなり認めて貰えるなんて」
すっかり宴会場と化した天主内を気にしつつ、小声で本音を漏らす。
「ああ。ある程度修羅場になるのは覚悟してたんだけど… 用意してたまきびしを使うまでも無かったな」
「信長様、私のプライベートにそこまで関心無さそうだったよね。何かあれば叩き斬るとか言ってたし… ちょっと複雑……」
斬る、
確かにそう言っていた。
でも…ーー
「俺の解釈は莉菜さんと少しだけ違う」
「え?」
どこか寂しげに呟いた莉菜さんの目を見つめる。
「関心が無いどころか… 思ってた以上に君は織田軍の皆に愛されてる。お陰で俺はあの場で斬られずに済んだ」
「う、うそ」
「嘘じゃない。君の笑顔を大切にしたいと皆が本気で思ってくれてる」
「!」
「…と、いうことを知れて安心したと同時に俺も負けてられないなって」
「佐助くん……」
「彼らよりももっと深く君を愛し、守り抜いてみせる。元の時代に帰るまでの期間、出来るだけ早く春日山で一緒に暮らせるようにも尽力するから信じて待ってて欲しい」
「あ、」
繋いだ手にグッと力を込めて引き寄せ、唇に触れるだけのキスをした。
「…っ、ありがとう……」
キスの後、再び莉菜さんの涙腺が緩む。
秀吉さんに泣かせるなと言われたばかりだけどこれは嬉し涙だから許してもらえるだろうか。
でも、莉菜さん…ーー
礼を言わなきゃならないのは俺の方だ。
俺に生きる希望と活力を与えてくれたのは君だから。
「もう一回」
「ん…」
酒のせいもあるのか気持ちが抑えきれず、今度は下唇を柔らかく食む。
感慨深い思いでいっぱいになりながら、俺はふと 莉菜さんと出会った日の事を思い出していた…ーー
………
………
ー 後編に続く ー