第14章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/前編
「政宗さん、これは」
「お前らが恋仲になった記念の宴だ。俺が朝イチから腕によりをかけてこしらえた料理、腹一杯食って帰れ」
色とりどりの食用花と共に綺麗に盛り付けられた刺身、鯛の塩焼きや鴨のロースト、海老つみれが入った吸物に季節野菜の天ぷら…
次から次へとお膳に並べられていく豪華な料理の品々に驚き、莉菜さんと二人顔を見合わせる。
「皆さんの逆鱗に触れる事はあってもまさかここまでして頂けるとは思ってもみませんでした。本当に… ありがとうございます」
心からの御礼を素直に伝えると、
「そんなに畏まらなくてもいい。ちなみに信長様の許可を取り"料理を作って待っててやれ"と俺に言ってきたのは秀吉だからな」
政宗さんが衝撃の真実を教えてくれた。
「そうだったんだ…!秀吉さん……っ」
「まーさーむーねー、それは言うなと言った筈だ!」
「本当のことだろ? 事実を喋って何が悪い」
「ったく… 口の軽い奴だ。莉菜、もう泣かなくていい」
「ごめ、なさ… ありがと… グスッ」
秀吉さんが硬かった表情を緩め、感激のあまり泣き出した莉菜さんの頭を優しく撫でる。
やっぱり秀吉さんは人間ができているな。
大反対を装い、俺を試していたんだろう。
…と、安心したのも束の間、一転して俺には冷たい目線が注がれる。
「佐助。これから莉菜を泣かせたらどうなるか… 分かってるだろうな」
「…! はい、泣かせません。まきびし以上に大切にします」
「当ったり前だ、こんな時にまきびしを引き合いに出すな!」
背筋を伸ばして大真面目に答えたら逆に怒られてしまった。
俺の本気が伝わらなくて残念だ。
「莉菜様、良かったですね!今後は自由に佐助殿との逢瀬を楽しんで下さいね」
「はぁ… 信じらんない。こんな間の抜けた忍のどこに惚れたの」
「なんだ、家康も莉菜を気に入っていたのか?」
「っ、冗談言わないで下さい光秀さん。神に誓ってあり得ませんから」
「ムキになるところが怪しいな。ククク…」
三成さん、家康さん、光秀さんからも温かい言葉をかけてもらい、莉菜さんが幸せそうに微笑む。