第14章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/前編
「……佐助くん」
莉菜さんが一言、俺の名を哀しげに呼んだ。
引き続きの遠距離恋愛を余儀なくされて落ち込んでるんだろう。
でもここで無理を貫くのが得策とは言えない。
まずは交際をオープンにさせることが先決だ。
「分かりました。認めて下さってありがとうございます。莉菜さんを春日山に貰い受けるお話は、今日の所は引かせて頂きます」
冷静に判断した俺は莉菜さんにアイコンタクトを取ってからワザと含みを持たせた返事をし、もう一度深々と頭を下げた。
「畏れながら信長様、本当によろしいのですか?」
秀吉さんが最後の念押しとばかりに信長様に尋ねる。
「構わん。不審な動きをすれば即座に叩き斬るまでだ。莉菜諸共な」
「!」
叩き斬るとは物騒だな。
真意を見極めるため上座を盗み見ると、
「…ーーー」
信長様の瞳は厳しい言葉からは想像もつかないほど優しく、本気で言ってるわけじゃないのは一目瞭然だった。
良かった… ひとまずは安心だ。
俺としてももちろん莉菜さんを利用して安土軍を裏切ろうなんて気は微塵も無い。
だけど相手(保護者)は第六天魔王と呼ばれ冷酷非道の肩書きを持つ戦国武将…
今後も何かしらトラブルを起こさないよう、気をつけないと。
「よし… 話はまとまったようだな。佐助、時間はあるだろ?」
「え?」
話し合いを見守ってた政宗さんが不意に立ち上がり、廊下に向けて合図をする。
すると控えていた女中たちが一斉に動き出し、ご馳走や酒の入った徳利を天主内に運び始めた。