第14章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/前編
「は… 失礼致しました」
秀吉さんは停止ボタンを押されたかのようにアッサリと引き下がる。
「ーーやっと来たか、猿飛佐助」
「…!」
"やっと来た"
上座にいる信長様から威厳たっぷりの声で放たれたそのたった一言で、莉菜さんとの経緯を以前から見透かされていたことを察知する。
「ご挨拶が遅れました。やはり全てご存知でしたか」
信長様は俺の質問にすぐには答えず、まずはニヤリと口角を上げた。
それからゆったりとした口調で言葉を紡ぐ。
「貴様らが俺の目を盗んで逢瀬を重ねていた事をか?」
「っ…ーー」
信長様の発言を聞いて莉菜さんは絶句した。
そして焦りの表情で俺の方を見る。
莉菜さんを安心させるために軽く頷いてから、
「……そうです。長い間黙っていて申し訳ございませんでした」
潔く認め、姿勢を正して最敬礼した。
そして信長様のすぐ近くまで移動し、改めて正座に座り直す。
「信長様、今日お伺いしたのは他でもありません。莉菜さんと男女のお付き合いをさせて頂くことを、彼女の保護者的存在である貴方にお許し頂きたく…ーー」
俺が土下座する形で話の核心部分に触れると信長様が鉄扇をバチンと閉じて遮ぎった。
「好きにしろ。そんなものは俺にとって取るに足らん話だ。ただし、」
「ただし…?」
「こやつは俺に幸運を舞い込ませる女、いくら懇ろになろうと貴様の居城へ連れ帰ることは許さん」
「!」
そう言って莉菜さんを顎先で指し示す。
交際自体は了承する、けど莉菜さんを春日山に連れてくのはNGってことか。
うーん…
移住の件は後でお願いしようとしてたのに先手を打たれてしまったな。
さすがは信長様、抜かりがない。