第14章 食堂のキミ、眼鏡のあなた/前編
「なっにが、"お邪魔してます"だ!」
信長様の隣で書類の整理中だった秀吉さんが立ち上がり、つかつかと歩み寄って来た。
「佐助、なぜお前がここにいるのか言ってみろ!」
「…っ」
言ってみろと言うワリに説明する間も与えられず、いきなり胸ぐらを掴まれる。
鬼の形相とはまさにこの事だ。
「秀吉さん、昨夜はごめんなさい! 佐助くんは悪くないの、私が帰りたくないって…! ねぇ、話を聞いて!」
莉菜さんが秀吉さんの腕に食らいつくが秀吉さんの力は一向に緩まない。
「莉菜さん、大丈夫だから落ち着いて」
「でも!」
「逆にお前は落ち着き過ぎだ、ちょっとは自分の状況を自覚しろ!」
俺を叱り飛ばした後も秀吉さんが言葉を続ける。
「莉菜、昨夜はこの男と二人で居たのか」
「は、はい……」
「佐助がどういう立場の男かお前も良く分かってる筈だろ?」
「…はい、わかってます」
莉菜さんが覚悟を決めたように頷いた。
その目と声からは強い意志がうかがえる。
「っ…! はぁ…… 何でよりによって敵軍の忍びなんだ………」
しばらくの睨み合いの末、根負けした秀吉さんがガックリと項垂れて俺の胸ぐらを解放した。
今の件でズレてしまった眼鏡の位置を直してると他の武将たちも口を開き始める。
「秀吉。じゃあ聞くが、一体 莉菜の相手が誰なら良かったんだ?」
「少なくとも政宗さんじゃないのは確かでしょうね」
「やはりそこは信長様では…?」
「それは違うな三成。仮に口ではそう言っていても もしそれが現実になれば腹の中では嫉妬に荒れ狂うだろう。ククッ」
武将同士で言い合ううちに徐々に分が悪くなってきた秀吉さんの顔つきは険しさを増す。
「くだらねえ… だいたいな、お前らは危機感が足りない! 万が一上杉軍にこっちの情報が漏れる可能性を考えればだな…ーー」
「その辺にしておけ」
言いかけたところで信長様のストップがかかった。