第11章 今夜は朝まで離さない/前編
「はぁ、はぁ、」
…………居ない。
安土城までの道を辿って部屋まで確認しに行ってみたけど莉菜さんは居なかった。
城の中の様子も普段と変わりなく、何か特別なことが起こったわけではなさそうだ。
もう一度、橋に戻ってみてもやっぱり居ない。
(ドクン… ドクン…)
胸が苦しい。
一番考えたくない事態がどうしても頭に浮かぶ。
楽しい逢瀬になるはずが、一転してこんな……
「くっ…」
居ても立っても居られず、莉菜さんが通りそうな道、寄り道しそうな店を手当たり次第に見て回った。
息を切らし、通りを行ったり来たりしていると…ーーー
「佐助?」
聞き慣れた声が背後から俺を呼び止める。
振り向くと、行商用の荷物を抱えた幸村が不思議そうな顔をして立っていた。
「どうした? なんかあったのか?」
「っ、幸村」
ーーー
「まじかよ」
おおまかに事情を聞いた幸村が眉をひそめる。
「ああ。もうかれこれ半刻は探してるんだけど見つからない」
「でもなぁ… あいつのことだし日を間違ってるんじゃねーか? で、今は たまたま違う用で出かけてるとか」
「俺も一瞬そう思ったんだけど… 念のため さっき鶴亀食堂に行って女将さんに聞いてみたら、今日は『友達』に会うからって理由でわざわざ休みを取ってるって…… その『友達』っていうのは多分、俺のことを指してると思う」
「そうか… まぁとにかく落ち着けよ、な?」
焦りからかいつもより早口になった俺の肩に幸村が手を置き、鎮めてくれた。