第12章 全身ラジオ〜新婚さんの話〜
嗚呼、お互いの唇が近い。
あと少しで触れ合いそう。このまま深く口付けてしまいたくなるが、今したら最後までシちゃって眠れなくなるルートが見える。キヨくんにも忠告されたばかりだし、軽く頬に触れるだけで留めておいた。
すると彼女はまた驚いた顔をして、けれどすぐに真ん丸い目を三日月にして微笑む。お返しですよと言わんばかりにその美味しそうな唇で、ちゅ、と俺の頬に触れてくれた。悪戯っ子の如く口角をにんまり上げて笑ってみせる彼女。
……やっぱり、寝かしてやらんとこうかな。誘ってんのかな。
「ラジオもう撮り終わったんだ?」
「あ、うん。今日は珍しく早めに終わったー」
「お疲れさまです。投稿されるの楽しみだなあ」
「先に謝っておきます、ごめんなさい。来週の全身ラジオを聞いても、どうか怒らないでください」
「え、ちょっと、ルトくん。今度はどんなプライベート晒しちゃったんですか」
「…………。」
「黙秘はずるいです」
そんな他愛ない会話をしながら、彼女の目線は小さな鍋に戻る。
鍋の中は真っ白だ。先程から漂う甘くてやさしい匂いの正体はコレに違いない。
「わ、おいしそー、ホットミルク作ってたんや。ええなあ」
「生姜と蜂蜜を入れたジンジャーミルクですよ。お夕飯に使った生姜が少し余っちゃったからね、眠れない時はこれがいちばん身体が温まってよく眠れます」
「へえー。なんや、もしかして今日は俺が隣に居らんから、上手く寝付けへんかったの?」
「そ、そうは言ってません! ちょ、ちょっとだけ肌寒く感じただけ、だもん。……ルトくんも飲む? 文明の利器エアコンで冷えた身体と、実況で酷使された喉にも、よく効きますよ〜?」
「えぇー、すごーい、さすが菜花ちゃん、なんて気の利く良妻。結婚して。あ、もう結婚してたわー。俺の自慢の嫁さんでしたわー、んふふ」
「もお、そんなに褒めたって何にも出ないんですからね。……そういえば、貰い物のカステラがあるんやけど、食べる?」
「めっちゃええモン出るやん。食べる」