第10章 近くて遠い、あと一歩
俺の彼女に向かって能天気な笑顔を浮かべて手を振るヒラくんと、凄く申し訳なさそうに「すみませんすみません」と両手を合わせて必死に謝罪のジェスチャーするこーすけくんの姿があった。
彼らも彼女の作品を見に来てくれたらしい。いつも大体怠そうなTシャツ姿のヒラくんが珍しく皺ひとつないYシャツ姿で、こーすけくんもキュッとネクタイをしていたりして、普段より随分綺麗に整った服装である。ふたりとも、そういう場の空気はちゃんと読むんだなあ。
恋人としては喜んで歓迎すべきなのかもしれないが、だからって、今このタイミングは無いと思うんですよ。ちくしょう。彼女の方を向き直ると、あまりのタイミングの悪さに、口元を押さえながら顔を逸らして笑いを堪えていた。
「んッふふ、こういうとこ、ルトくんらしい……よね、ふふふっ」
あの、笑い事やないんですけど。
くそう、顔真っ赤にしてぷるぷる震えている彼女も可愛い。許す。だがヒラくん(元凶)とこーすけくん(巻き添え)は許さん。
自分の運の無さというか、タイミングの悪さというか、いざって時に絶対カッコよく決められないのは、もはや俺の絶対的運命なのだろうか。実況仲間とわいわいパーティーゲームとかやっても、序盤に上手くいったところで後半で失速する男、それがレトルトですから、ね……泣いてない、泣いてないぞ……。
「あれ、ハナさん何でそんなに笑ってるの? 嬉しいことでもあった?」
「ふふ、そうですね。ヒラくんたちが作品を見に来てくれて、とっても嬉しいですよ」
「へへ〜、俺もハナさんの絵が見られてうれしいなあ〜」
俺から恨みを買っていることなど露知らず、ヒラくんは彼女に頭を撫でられてへにゃへにゃと笑っている。天然ぶりっ子な小動物系のキャラしてるおかげで可愛がられやがって、この野郎。