第6章 サイファーポールNo.9
「ぐはっ・・・・?!」
何が起こったのかわからず、男は地面に叩きつけられ血を吐いた。
女が馬乗りになっている。凄まじい力で身動きが取れない。
全身に神々しいオーラのようなものを纏ったアヤは、怒りの形相で仮面の男の心臓を指差した。
背中には凝集された光の帯がゆらぎ、まるで天使のようだった。
美しくも恐ろしい光景に男は息を呑んだ。
「ここから、消えて・・・!!今すぐ・・・!」
ぽたぽたと女の脇腹から血が滴っている。決して不利な状況ではない筈なのに、長年の勘とでもいうのだろうか。
男の全身の毛は逆立ち危険信号を発していた。
アヤの背後にゆらりと美しい青年の人影が現れる。
その影は静かに男を見下ろし冷たく微笑む。
《彼女の怒りは、僕の怒りでもある・・・。引かないのならば更なる地獄を見る事になるよ。》
悪魔の実の能力か・・・?
何かを使役している?いや、これは・・・この女、まさか!
男はかつてCP-0、CP9総勢で襲撃したという小さな国の事を思い出す。
にわかに信じがたい話だったが、その国の王女が死者の魂を様々な方法で使役できるという、特殊な悪魔の実を口にしているとの情報が舞い込んだのだった。
上から何としてでも奪えと命が下った。しかし王女の生死の確認もできないまま任務は失敗したと聞いていた。
「・・・これはとんでもない収穫だ。」
男は高らかに笑うと、両手を広げて降参の意を示した。
「わかった・・・今日のところは帰るとしよう。逃げた奴隷なんざどうでも良くなった。」
敵意が無い事を確認し、アヤは男から離れた。
怒りを帯びた視線は許すことなく男に降り注いでいる。
「あなたみたいな人・・・大嫌い。」
男はふっと笑うと、空を蹴り遠のいた。少し先に小さなモーターボートが浮かんでいる。
そこに男が降り立つと、どこからともなく飛んできた鳩が肩に乗った。
「ハッ・・・何とでも言え。お前はもう、逃げられん。」
仮面の男はそう言い残すと、海へ消えた。