第6章 サイファーポールNo.9
確かに仕留めたビジョンがあった。が、目の前にいた筈の女がいない。
爪からは血が滴っているが、致命傷ではなさそうだ。
男は目を見開き、無意識に体を反転させて周囲が見渡せる位置に飛びのいた。
「正義の名のもと・・・?」
静かに呟いたその声は、怒りに震えていた。
アヤは甲板の上にある見張り台の上に立っていた。
この一瞬であそこまで移動するなど、信じられない神業だった。
上着は脱ぎ捨てられ、脇腹からは血が滲んでいた。ゆらりと銀髪の髪が風にそよいでいる。
「・・・お前、本当に何者だ・・・?」
男の問いにアヤは応えない。
アメジスト色の瞳を輝かせ、男を睨みつけた。
「・・・ふざけないで。ほんとうの正義というものの意味がわかっているの?
それぞれの理屈と、都合で自分たちのエゴを通そうとしているだけじゃない!」
竜人族は視界に入ったというだけで、理不尽にサボの乗っていた船を沈めた。
海軍だってそう。エースがロジャーの血を引くという理由だけで、見せしめのように処刑した!!
「あなた達ような人間が正義をかたる事は・・・許さない!!」
アヤの周囲にぼんやりとした人魂のようなものが集まり始めた。
怒りに震えたアヤが、初めて悪魔の実の力を使おうとした瞬間だった。
この海で無念に散った、無数のいのち達よ・・・少しでいいから、力を貸して!!
“ソウルドレイン”
アヤが念じたと同時に、海面から夥しい数の人魂が舞い上がり、あっという間にアヤを覆いつくした。
しゅるしゅると音を立てアヤの体に吸収されると、眩い光が放たれた。
男が構えたと同時にその体は吹き飛ばされた。