第6章 サイファーポールNo.9
男は背を向け数歩離れると振り返り、空を掴むようにアヤに向かって真っすぐ腕を伸ばした。
武器を持っている様子は無い。体術を使うのだとアヤは直感する。
「上司の命令だか何だか知らないけど・・・無関係な人たちを傷つける必要は無いでしょう!!
それに、奴隷っていうのも、聞き捨てならない!」
「その無関係な奴らの中に紛れている・・・どうしようもないな!」
男が飛び上がったと同時にアヤも地を蹴った。
相当な鍛錬を積んでいるのだろう。常人では目にも止まらぬ速さで男は空を蹴り移動する。
まるで、宙に足場でもあるかのような光景だ。
しかしアヤも引けを取らない。
周囲の足場を並ならぬ速さで飛び移り男にぴったりとついてゆく。
アヴェルから授かった体術は常人の域を超えていた。
ガキィン!!!
拳のぶつかり合いとは思えない、鉛のように鈍い音が響く。
「・・・女、その体術はどうやって身に着けた?まさか俺の月歩について来れる奴がこの船にいるとは!」
「応える義理はない・・・でしょっ!」
「ハハハ!!是非ともうちに欲しいねェ・・・!!」
ほぼ互角の渡り合いを何度か繰り返すと、男は身を翻し地に降り立った。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ぐぐぐ・・・と男の筋肉が隆起し始める。
「CP9(サイファーポールNo.9)・・・。正義の名のもと、俺達の特権は行使される・・・。」
みるみる内に変貌してゆく男の姿にアヤは目を見張った。
男にはふさふさとした体毛のようなものが生え、その毛並みには斑点模様・・・まるで豹だ。
《・・・アヤ!悪魔の実の能力者だ!!》
アヴェルが叫んだと同時に、男が先ほどより数段早い速度でアヤに距離をつめた。
「殺しも正当化される!!!」
“指銃(シガン)”
むき出しになった凶器のような爪が、アヤ目掛けて飛んできた。