第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「私は、この後コメータに戻ることになりますか」
「そうだな……君は表向き、誘拐・監禁されたことになっているし、俺たちの保護にも従っているからな。順当に行けば、コメータのボスの意向に沿ってファミリーに戻ることになる」
つまり、すべて元通りというわけだ、と氷雨は独りごちた。XANXUSの命に従って、コメータファミリーへ戻ったときに状況が戻るだけ。それだけだ。
至って冷静に状況を分析して、彼女は結論を出したつもりだった。ポタリと、握りしめた手の甲に涙が落ちるまでは。
「お、おい、泣いてるのか?そんなにショックだったか?」
「あ……ち、違います、これはただ、」
ーー悔しくて。
自然とその言葉が頭に浮かんだときに、氷雨は理解した。理解してしまった。状況が戻った、それだけなんかじゃないことに。
理解してしまったらもう、溢れる涙を止められなくなった。
「あーもう、これじゃ俺が泣かせたみたいじゃねえか」
「すみま、せっ……でも私、気づいてしまって……っ」
「気付く?何にだ?」
「私、何も……何も、しなかった…….っ」
ディーノは氷雨の言葉の真意がわからずに首を傾げる。その間にも彼女の瞳からは涙が溢れ続けるものだから、ますますバツが悪くなって彼はせめてと思いながら、ハンカチを差し出した。
氷雨はそれを受け取ると、己の目にハンカチを押し当てる。それでも涙は止まらない。
ーーなにか、をする機会はいくらでもあった。
ベルフェゴールに、レヴィに、他の隊員に状況を聞けばよかった。あの部屋から飛び出して自分で調べればよかった。
それをしなかったのは、ただ自分が逃げていたからに他ならなかった。
思えば、自分はいつだってそうだったように思う。親の意向でヴァリアーに入隊し、ボンゴレとボスの命令でコメータファミリーに戻り、ベルフェゴールに連れ出された時もボンゴレの命令を優先して拒んだ。結局強行されてしまったけれども。その後も、ボスの命令だベルフェゴールの命令だと都合の良い理由を付けて、自らの意思で行動することを避けた。そうして自分を守ったつもりだった。