第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
おにぎりを食べ終わってしまった氷雨は、拗ねたような顔をしながらシュークリームに手を伸ばすと間髪入れずに「それ、オレの」という王子のお告げが降ってくる。どれが王子のものでないかがわからないので、彼女はそのまま手を引っ込めた。
「放り出されないように、頑張る」
「おー、適度に頑張れ」
「なにかなー。応援くらいしてくれないかな」
「してんじゃん。適度に頑張れ」
「不思議と応援されてる気がしないよね」
牛乳を飲んでいるベルフェゴールは、文句あるのかと言いたげに表情を歪めた。そこに、コンコンとノック音が響く。氷雨が声を出すより前にベルフェゴールが「誰?」とノックの主に聞いた。
扉を開けて現れたのは、レヴィだった。数日振りに見た他の幹部の姿に氷雨は少しだけホッとする。
「ボスから、今夜のことで話があるそうだ」
「いま?まーいいけど」
片手に牛乳を持ち、片手で松葉杖をついてベルフェゴールは部屋から出て行こうとする。氷雨が思わずベッドから立ち上がると、彼はくるりと振り返った。
「おまえは留守番。ここで大人しくしてな」
「……いや、って言ったら?」
ベルフェゴールの纏う空気が鋭くなったのを、氷雨は感じ取った。やっぱり彼は自分をここから出したくないのだ。理由はわからないけれども。
氷雨が「どうして」と疑問をぶつける前に、彼の右手がその額にデコピンを食らわせた。牛乳はいつの間にか、レヴィに押しつけられている。
「王子に逆らうなんて生意気。いいから、待ってろ」
「……それも命令?」
「そ。命令」
逆らったら死罪、と言ってベルフェゴールが笑うので、氷雨は頷くしかなかった。バタン、と扉が閉まる。いまの彼女は、この上なく部外者だった。