第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
そんなことを考えてる間に、バタンと勢いよくドアを開けてベルフェゴールが帰ってきた。片手にはビニール袋をぶら下げている。
「誰もいなかったから、コンビニ行ってきた」
「そりゃご苦労さまです」
「ん、もっと労えよ」
ベルフェゴールは、いつもの調子で笑いながらベッドに腰を下ろす。雑な手つきでビニール袋を引っくり返すと、食べ物や飲み物がベッドの上に転がった。7割がお菓子だ。
氷雨は、勢い余ってベッドから転がり落ちた商品を拾う。ふと、彼女の手が止まった。
「……これ、」
「ああ、好きなんだろ?ウメボシのオニギリ」
そう、彼女が拾い上げたのは梅干しおにぎりであった。ベルフェゴールの好みで買ってきたなら絶対にお目にかかるはずのない商品だ。氷雨の胸に、なんとも言えない感情が湧き起こる。
ベルフェゴールは早速プリンを開けて、食べ始めていた、
「そーいや焼きおにぎりも前に買ったんだけど、おまえが作ったのと味が違うんだよな。なんで?」
「え?ああ、コンビニの焼きおにぎりは醤油味が多いからじゃない?」
「おまえのは醤油じゃねーの?」
「私のは味噌だったから」
「ふーん」
氷雨は拾い上げた梅干しおにぎりを一口齧る。日本に来てからは実家に閉じ込められていたせいか、日本のコンビニのおにぎりを食べるのも久しぶりだ。なんだか懐かしい味がするような気がして、表情が綻ぶ。
彼女が美味しそうに食事をする姿を見ると、ベルフェゴールは満足そうに口角を上げた。牛乳の紙パックにストローを差しながら、彼は口を開く。
「今日さ、ボスの試合があるんだよね」
「……リング争奪戦の?」
「そ。今日で最後。終わればボスがボンゴレを手に入れる」
今日までに何試合あったの、とは氷雨も聞けなかった。無言でおにぎりにかぶりつく。
「そしたらジャッポーネともおさらば!やっとイタリアに帰れるぜ」
「そっか……」
「なに、嬉しくねーの?」
「いや、私帰れるかなーって思うから。争奪戦終わったら処分される予定だしね」
「ああ、そうだっけ?ま、いいじゃん。オレがまた雇ってやるし」
「放り出されるの決定ですか」
ベルフェゴールは、とっても楽しそうな顔で笑った。冗談、と言うものの顔は決して冗談を言っている顔ではない。