第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
「ん〜…」
不意に、ベルフェゴールが身動ぎした。時刻はもう夕方だ。「起きたの?」と氷雨が声を掛けると、彼は少し掠れた声で「……起きた」と答える。
腰に回っていた腕が緩むのを確かめて、氷雨は体を起こした。ベルフェゴールはまだ寝転がったままだ。
「何時?」
「5時ちょっと前」
「もうそんな時間かよ。……腹減ったー」
「あ、なにか貰ってこようか?」
「いや、いい。オレが行く。おまえは此処にいろ」
また、だ。
氷雨が部屋を出ようとする素振りを見せると、ベルフェゴールはいつもなんやかんやと理由を付けてそれを阻止する。今日も彼女を引きとめたベルフェゴールは、欠伸をこぼしながらも起き上がって、ベッドサイドに立てかけてある松葉杖に手を伸ばした。
「おまえもなにか食う?」
「あー、じゃあなんか適当に」
「りょーかい」
ちゃんと待ってろよ、と言い残してベルフェゴールは出ていった。
残された氷雨は、この部屋を出るべきかどうか、今日も考える。おかしいのはベルフェゴールの様子だけではなかった。彼女は3日前からずっと、ベルフェゴール以外の幹部に会っていない。部屋から出ないから会えないだけなのかもしれないとも思うが、彼女は嫌な予感を感じていた。
ベッドに横になったルッスーリアの姿、松葉杖で歩くベルフェゴールの姿が脳裏に浮かぶ。他の者になにもないだなんて、どうして言い切れるだろう。
『オレが昨日勝ったから、あと1回勝てばボスの勝ちだよ。楽勝だろ?』
3日前、ベルフェゴールはそう言って笑っていたが、あと“1回”は、いつになったら来るのだろう。それとも、もう来たのだろうか。彼はその話題を出そうとしないから、氷雨もなんとなく聞けないままでいる。そもそも彼女は、いまはヴァリアーの隊員ですらないのだ。聞く権利なんてあったものではない。